短編集
「去年の夏、憬子から電話があった」
 私は大きな独り言をいう。
「あの時、憬子はいつもと様子が違った。貴ちゃんの話をしなかった」
 そうだ。
「憬子は、貴ちゃんとの運命を信じていた。……貴ちゃんから、憬子と別れたんだね」
 視界の一角で、首が縦に動いた。
「そうだよ」

 無理に浮かべる笑顔は、見ていて辛い。けれども、もう一度問わずにはいられなかった。
「どうして」
 傷心の旧友は、その笑顔のままだった。

「どうして……って、俺は。紗和……」
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