短編集

 家の電話が鳴った。母がそれを受けた。喚声が上がり、母は悲痛な声で私を呼んだ。
「紗和」

 数日後、私は再びひまわりの丘に続く道を歩いた。丘を登りきり、少し下がると、真新しい事故の痕があった。幾つかの献花があり、私もそこに持参した花束を置いて手を合わせた。立ち上がり、戻って斎場に入った。
 私のことを「好き」と言った、あの顔が笑って動かない。あの日ひまわりの下ですれ違い、そして事故を起こしたという。頭を強打し、病院に運ばれた。数時間後、息を引き取った。
 私の部屋にいた、話をした、抱きしめらた。そのことは誰にも話せなかった。


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