短編集
無駄に緑の多い大学で、随分と濃い緑色が秋めく風に揺れる。ほとんどが背の高いビルのような校舎だが、図書館だけは三階建てだ。
空間を隔てるように、図書館の周りは一層木が多い。僕は図書館の屋上に出て、梢の額縁で切り取った都会の空を見るのが好きだった。有難いことに屋上緑化とかで、最近は芝生に寝そべりながら楽しめる。
「何してるの」
不意に画の中に彼女が飛び込んで来た。僕は体を起こさずに答える。
「センチメンタルという感情に浸かる実験」
口から出るに任せた言葉に、随分難しいことをしているのね、と彼女は笑った。そして、何の気なしにバッグから煙草を取り出す。
「やめたんじゃなかった?」
「心配してくれてありがとう」
何が、ありがとう、だ。僕の忠告なんか聞いていないくせに。
ジッポーで煙草に火を付ける。大きく吸って、煙を吐く。風は彼女の長い髪と煙を動かした。