短編集
「ありがとう」
 もう一度言って、彼女は微笑んだ。そして視界から消える。僕は寝返りを打って彼女の方を向くと、彼女は煙草の箱をカタカタと振った。
「この煙草ね、《希望》って言うのよ?」
 どう、センチメンタルになれた? と彼女はまた笑った。僕は曖昧な返事をして、再び空に目を向ける。

「一緒にいてくれて、ありがとう」
 この呟きは彼女に届いたのだろうか。返事も笑い声もなかったが、ジッポーの金属音はした。
 希望の煙が、風に乗って空へ上って行く。


おわり
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