短編集
あなたは、茶色い渦から目線を上げて、窓を打つ雨粒を見た。
「止みそうにないね」
「そうだね……明日の朝まで続くかな」
「どうするの、これから」
秋の日はつるべ落とし、ただでさえ日暮れは早いのに、雨の日は尚更、既に外は薄暗い。何が降水確率三十パーセントよ。
「見せたいもの、たくさんあったのに」
「可愛い顔するなあ」
苦笑いして、甘いコーヒーを口にする。その手を、骨ばった指を目で追ってしまう。
「かわいい、って言われると、馬鹿にされてる気がする」
「馬鹿になんか。おばあちゃんにも可愛いって言うだろう」
「私のことおばあちゃんだって言うの?」
今度は声を立てて笑った。店に声が響く。恥ずかしい。
「おれはさ、香苗さん」
「なに」
「もっと見たいものあるんだけど」
ぐっと声を潜めて、目は糸のように細くなる。良からぬことを企んでいるときの顔だ。