ナンセンス!
母親は、小さく息をつくと言った。
「 まあ、あなたの正義感は、認めるわ・・・ 祥一との交際も、認めましょう。 ただし、真面目にお付き合いするのよ? まだ、結婚を許した訳では、ありませんからね? 」
慎重な母親だ。
まあ、でも・・ 一歩前進かな。 一肌脱いだ甲斐があったワケだ。
祥一は、僕と目を合わせ、嬉しそうに笑った。
母親は言った。
「 実はね・・ お礼のついでに、あなたに相談しようと思ってね・・・ あなた、社会科を教えてらっしゃるのね? 経済的観点から、意見をして頂こうと思うの 」
・・・社会科だったの? 美津子先生。
てっきり、英語か音楽だと思ってたよ、僕。
「 何でしょうか? 」
僕の問いに、母親はコピーされた地図をテーブルに出した。
「 ご存知の通り、ウチは、繊維を扱う商社です 」
初めて聞きます。
「 輸入の安い商品も扱ってはいますが、昔からお世話になっている問屋様は、国内製品を主に、商いをされております。 ウチも、一昔前は、そうでした。 でも、これでは、安い輸入製品に押され、国内の繊維業は衰退の一途です。 ・・・この地図は、ウチの会社も含め、繊維問屋街一帯のある、中区二丁目街です。あなたは、あまり行った事がないかもしれませんが、商店が閉まっている土・日・祝は、誰もいなくて、まるでゴーストタウンです 」
商売をしている、親戚の叔父さんの会社の近くだ。
確かに、平日は、それなりにビジネスの関係で賑わっているようだが、休みは誰もいなく、不気味な雰囲気になるらしい。
母親は続けた。
「 商店街の会長さんとは、私たちとも、古い付き合いなの。 何とか、休みの日の、閑散とした情況を打破するアイデアは無いか、と言われてね・・・ 商店街組合としては、ファッションの専門学校を誘致したり、国内繊維を扱うブティックを開いたり、バザーを行ったりしてるんだけど・・・ イベントを開催している日だけは集まるんだけど、日常的には、ならないの。 何かこう・・ 若い人たちが、日常的に集うようなアイデア、ないかしら? それが、商店街の活性化につながると思うのだけど・・・ 」

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