鬼守の巫女
「あ、ありがとう」
何とか声を絞り出しそう言うと、男は可笑しそうにクスクスと笑った。
「……貴方は?名前……なんて言うの?」
その私の問いに男は頷くと、それから小さく口を開いた。
「魏戎だ。それが俺の鬼名だ」
「……おにな?」
「そうだ。鬼の名。最近の鬼は普段は人間社会に紛れて生きている。鬼名を隠し、普通の人間として暮らしている鬼も沢山いるんだよ」
「貴方にも別の名前があるの?」
「まあな。滅多に使わないが」
……鬼は人間社会に紛れて生活をしている。
一体どれだけの鬼がそうやって生きているのだろうか。
知らなかっただけで、実際はどこかで会った事があるのかもしれない。
そんな事を考えていると、男が小さく溜息を吐いた。