鬼守の巫女
「今日はもうお休み下さい。色々とお疲れの様ですし。私はこれで失礼致します」
「あ、あの!」
そう言って頭を下げて部屋から出て行こうとする彼女をまた呼び止める。
「貴女の名前を教えてくれませんか?」
その私の問いに彼女は少し驚いた様に目を見開くと、それからコクリと頷く。
「私は樫月馨(カシヅキ カオル)。樫月家三十八代目当主、樫月馨と申します」
「……馨さん」
小さく彼女の名を呼ぶと、彼女はまた優しい笑みを見せた。
その笑みはこの部屋から見える、あの不思議な満月の様に穏やかで、とても優しい……そんな微笑みだった。