鬼守の巫女

「……凪」

そう小さく名を呼ばれ……そっとその声へと視線を向ける。

その声の主の黒い瞳は、まるで諭す様に私を静かに見つめていた。

「……世界を……救ってはくれないか」

その朧源の呟きと共に、私のざわめく心が一気に冷める。

……世界を救う。

……鬼を封じ、新たな結界を創る。

そうすれば……私は何かを救う事が出来る。

……魏戎を……封じれば。

《私は……皆を幸せにしたい》

遥昔に思えるかつての願いが、不意に頭の中を過った。

《皆が幸せになれる方法》

今となってはあまりにも稚拙で愚かなその願いに……小さく嘲笑を浮かべる。
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