夜空に咲く僕たちの願い
がらんとしたバスの中は寒かった。
運転手が暖房をつけるのを忘れたのか、それともエコのためなのか。
文句ひとつ言えない俺が信じるのは自分の体温だけだった。
病院のバス停までは近かった。あっという間に目的地には着き、バスを降りる。
降りた瞬間、俺の祈りは儚く散ったのだった。
「……渓斗」
病院の入口の近くにいたのは渓斗だった。
学校帰りなのか学ラン姿のままで、暗い表情を浮かべながら歩いていた。
俺は呼び止めることはしずに黙って渓斗のあとを追っていく。
病院の中は不気味なくらい静かだった。
見えなかった心の闇を覗いたのは俺だった…。
渓斗は淡々と廊下を歩いていく。
産婦人科を小児科を過ぎる。
ここの総合病院は色んな科があり、名前を見るたび頭が痛くなる。
一歩一歩進むたび緊張が増す。
…それはあまりにも衝撃的だった。
「渓斗くん、いらっしゃい」
ある部屋から出てきたのは昨日渓斗の隣で歩いていた女の人だった。
その人は真っ白な白衣を身に纏い、笑顔で渓斗を迎え入れていた。
次第に震えが止まらなくなる。
「……なんで…渓斗が…ここに…………」
視界が歪む。
息の吸い方を忘れてしまう。
俺の目に映る文字。
それは、“精神科”
もっと早くお前の心を覗いていたら。
辛さも痛さも半分にできたのかな。