姫様にkiss
「傘、どうぞ。」
「いや、いい。」
「遠慮なさらないで下さい。あたしの家、直ぐ近くなんです。どうぞ使ってください。」
少し無理矢理気味に、傘を押しつけた。
男の人はありがとう、と小さく呟いて、傘をさして立ち上がった。
「君は天使のように優しいんだね。」
「は…?」
「じゃ。」
あたしはその時思った。
「…キザな奴。」
「何か言った?」
「あの時。朔真と初めて会った時。キザな奴、って思ったんだよ。」
今まで落ち込んでたくせに。
メガネだって壊れてたくせに。
…泣きそうだったくせに。
どうしてこんなにキザなの、って。
何なのアイツって。
そう思わずにはいられなかった。
「まさかあのキザboyが朔真だったとは。」
「キザなんじゃなくて、本当にあの時は天使に見えたんだよ。」
“本当、どうしていいかわかんねぇぐらい、参ってたから。”
そう言って、何処か遠くを見るように、目を細めた。