姫様にkiss



「さて、聞かせていただけますか?姫様。」



後ろを振り返って、丁寧にお辞儀をした朔真を見て、断ることは出来なかった。



すう…と深呼吸を一度だけして、今まで反らしていた目線を真っ直ぐに向けた。




「聖学祭…があるんだって。」
「聖学祭…ね。」
「お父さんもお母さんもきっと来れないから。ううん。言ったら無理してでも来ようとするから。」
「それで?」
「忙しいのに無理して来て欲しくない。だったら、家でのんびりして欲しいの。でも……それと同時に、やっぱり来てもらえないと寂しいのも事実で…………」



前に一度、って言っても小等部の時だけど…



お父さんに授業参観があるんだって言ったら、来てくれたことがあった。



当日はものすごく嬉しかったけど、次の日にお父さんが会社で倒れたのを聞いた。



お父さんが倒れたのは、あたしのせいだから



それから学校行事を言うのをやめた。



あたしの行事なんか来てくれなくていい。



お父さんやお母さんが倒れるよりは、ずっとまし。



そう思っているのに、いざとなるとお父さんやお母さんの姿を探してる自分がいて、何となく虚しかった。









< 89 / 266 >

この作品をシェア

pagetop