会えなかった天使
年末はどこも忙しい。
それは彼も同じで、休みらしい休みも無い日が続いてた。

今日こそは、今日こそはって何度思っただろう。
何も言えないまま、誰にも言えないまま、大晦日を迎えてしまった。

お気に入りの店でのカウントダウンパーティ。
彼の友達も一緒に盛り上がって迎えた新年。
初詣で引いたおみくじは、何の暗示か『大吉』だった。
朝になってみんなと別れ、彼の家へ。

言わなきゃ…。

「あのね、話があるんだけど…」

いつもと違う空気が流れた気がした。

「あのね、赤ちゃん、出来たみたいなんだ」

…言えた。
やばい、泣きそう。
でも、彼の口から出た言葉は、想像と真逆だった。

「ふーん、頑張れ♪」

…は?
何それ。頑張れ?何を?
ひとりで頑張れって事?
意味わかんない。
何それ…。最低。

溜まった涙が溢れた。
何でそんな簡単に言えるの?
何で他人事みたいに言えるの?
こぼれる涙が止まらない。

「え?どうした?」

まだ他人事。
もうやだ。こんなのやだ。
こんな最低な思いするために今まで悩んでたなんて。
初めてかもしれない。
彼に切れた。

「もう!何でよ!!!何で他人事みたいに言えるの!?最低!最低!」

やっと気付いたのか、慌てて宥めようとする彼。

「ちょ、ちょっと落ち着けって!どうしたんだよ!」

「アタシひとりでずっと悩んでたのに!どうしよう、どうしようって!何が頑張れ!?ひとりで頑張れって事!?最低!」

泣き崩れたアタシを呆然と見つめながら、自分の言葉がアタシを傷付けた事にやっと気付いたようだった。

「ごめん…。ひとりで悩ませてたんだな。一緒に考えるから。ちゃんと考えるから」

彼の真剣な言葉に包まれながら落ち着きを取り戻した時、無意識のうちにお腹を庇うように座り込んでいた。
そう、新しい命を守るように…。
< 2 / 2 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop