白球追いかけて
 学校がはじまってから一週間たって、整形外科の診察日。
 学校帰りに病院に行った。受付で診察券と、月が変わっていたので保険証を出してから、待合室のソファーに座る。
 プロ野球がシーズン終盤にさしかかっていたので、待合室のスポーツ新聞はその記事でいっぱいだった。
 手にしたスポーツ新聞はあまりしっくりこない。高校生にスポーツ新聞。その姿はまるで制服を着たおっさんみたいだ。しかし、普段は読まないが、実際手にしてみると結構読みやすかった。スポーツ欄以外にも目を移しても、芸能欄は、昼間のこてこてしたワイドショーよりもおもしろい。
 スポーツ紙を読むオレの横で、保育園ぐらいの子が母親の膝に座り、クレヨンで画用紙に絵を書いている。茶色と緑と肌色でなにかを表現している。
「これがタクヤ君で、こっちが僕で、これはミナちゃん」
「じゃあこれは?」
 母親の質問に子どもは、
「ミンミン」
 と答える。
「ああセミね」
「チェミ?」
「セ・ミ。セミ」
 親子の会話から、夏の虫取りの思い出だったのがわかった。もし自分だったら、そのクレヨンを使って、この夏の気持ちを何色で表そうか‥‥‥。
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