白球追いかけて
 健康器具にはまっているオカンだが、たばこをよく吸う。たばこに火を点けると、一瞬、オカンと姉ちゃんの顔が明るく照らされ、二人のニコチンパーティーがはじまる。でも二人ともにおいを気にしていたのだろう。オカンも姉ちゃんも台所の換気扇の下で吸う。自分たちの部屋で吸うときは、窓を開けていた。
 いかにも不健康そうなこの光景を見飽きていたので、オレはたばこには興味を持たなかった。ポーズとしてもかっこよさを感じない。
 こんな家族だけど、家の中はいつも明るい。オカンとオトンは離婚せずに別居中。オカンもオトンも、お互いこの別々の生活がとても居心地がいいと以前話していたが、オレにとってはあまりよく理解できない大人の世界だった。家の中ではそのことについては暗黙の了解でタブーになっていた。想像の中では、そういう大人の世界なんて、考えてもまったくわからなかった。
 そのオトンには年に数回しか会わないので、実際自分がこの家で唯一の男。父親の不在は正直寂しかった。「男とはこういうもの」というモデルがなく、自分で自分をつくらなくてはいけなかったが、ただ、これがけっこう楽しくもあった。「自分」をデザインする「オレ」だ。
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