白球追いかけて
 はじめてキスをしたのがはじめて手をつないだ日。
 オレンジの街灯に照らされた歩道は人通りが少なかった。ふと横を見ると、壁にはスプレーで描かれた落書き。グラサンに白い歯、唇の上にはヒゲが生えている。リアルなタッチで描かれているので、すぐにスティービーワンダーだと思った。 
 歩道を歩く二人の距離は近く、不意にオレの指とナツミの指が触れる。そして絡まる。
 風邪ぎみだったがキスをした。少し早い気もしたが、雰囲気がそうさせた。
 アイツもそれをわかってくれていたのか、少し顔をこちらに近づけてくれた。しかし、ドラマのようにはタイミングがうまく合わなかった。唇が重なるのに少しムリがあった。二人のココロと心が一致していないと感じたのは、オレだけではなかっただろう。
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