白球追いかけて
 それが決まってからは、なぜかオレは練習の帰りに、トウサ高校のグラウンドの近くを頻繁に通りはじめた。気になっていた気持ちが素直に体をグラウンドのほうへ動かした。
 トウサ高校はナイター設備がそろっているので、真っ暗になっても練習ができる。平日の夜にもかかわらず、後援会やOB、あと、プロ球団かはわからないが、スカウトらしき人も来ている。トウサ高校野球部に対する周囲の期待の大きさを感じさせられた。このプレッシャーの中でする野球は一体どんなものなのだろう。
 照明で光ったグラウンドを一周見回す。すぐに見つけることができたシータは、スポットライトに照らされて、スターのようだった。練習に夢中のシータは、遠目からはオレの存在にはまったく気づいていないようだ。
 しかし、高校球児の青春を代表するような、あの素直な直球は本当に美しい。男も惚れそうな、あの”投球の魅力”とでもいうものに、思わず引きつけられてしまった。
 ボールがキャッチャーミットに「パシッ」と入る音に、オレはふと我に返った。その音に導かれるように、急にケメの存在が浮かんだ。そういえば最近、このグラウンドでケメを見ねえよなあ、と思った。
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