白球追いかけて
 シータを、決してフォアボールでランナーに出してはいけない。しかし、ど真ん中には投げられない。投げたくない。オレの直球ではシータを抑えきれない。
 大きく深呼吸をして、スタンドを見ると、そこにはケメがいた。聞き慣れたテーマソングが応援席から流れてくる。楽器の応援の中で、両手を祈るように組んでいた。
 野球のルールを知っているケメが、この大差でなぜそこまで深刻に祈っているのだろうか。もしかして、ケメはオレのことを応援してくれているのだろうか。もしそうなら、ここで逃げるわけにはいかない。
 キャッチャーの狭間が内角低めのサインを出したが、オレは無視した。
 真剣勝負。
 シータが待っているど真ん中に、五球めを思いっきり投げた。
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