思い出のフィルム
私はふと彼女の膝に置かれたポラロイドカメラに目をつけた。

なんだか由緒正しい古風なカメラで、先ほど駅構内から外の山嶺の景色を撮っていた。

そしてその写真を見て素人な私でも確信できた。

彼女は間違いなくカメラマンの金の卵といったところだ。

私と一緒に行動するより、優れたカメラマンと行動した方がよいと思った。

そんな私の考えを見透かしてか、彼女はこう言った。

同時に、彼女は少し顔を赤らめて笑ってみせた。

「正直なところ、私の写真をそんなに褒めてくれた人は今までいませんでした。よろしくお願いします」

すると彼女は思い出したかのように改まった表情になった。

「自己紹介がまだでした。夢島優子、17歳です。高校2年でしたが、中退する覚悟できました。それ以前に学費も払えませんので、まずは生活のために働くことを考えています」


「私は植草さんの感性や表現に惹かれました。私は現実を写真に写し出す力しかないので、表現力が高く、感性豊かな人と働きたいです」

彼女はあくまで私と歩いていく世界に興味があるようだ。

私も彼女の写真に興味があった。

彼女の写真には動きがある。

生き物の呼吸や足を踏みしめる音、風に揺られる草の音に木々のざわめきなどが今にも聞こえてきそうだった。

「ならば私はカメラマンとしてではなくて、一緒に景色を探す取材の助手として、一緒に来てくれないか?むしろ私としても、これほどのレベルの写真を撮れる人と一緒に仕事ができるのはとてもうれしい」
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