思い出のフィルム
すると彼女は私と向き合ってお辞儀をした。

「よろしくお願いします」

私も思わず会釈した。

「こちらこそ、よろしくな」

かなり丁寧な子だった。彼女の表情も、そして仕草もとても自然で、優しい感じがした。まさに優しい子で優子といったところかもしれない。

「あ」

私は思いだしたかのようにこう言った。

「もしかしたら今日は私は泊まり込みの張り込みになるかもしれない。そうなったら親御さんも心配するだろうし、早めに帰宅してもらわないと」

私がそういうと、彼女は少しだけ遠くの景色に目をやってから、静かに目を閉じた。

「私には家族がいないので平気です」

私はそのとき、孤児院からでも抜け出したのかと古風なことを考えていた。

そんな私の考えを見透かすかのように、彼女は続けた。

「ついこの前、母を失いました。葬儀、相続等は済み、私は今は一人で生活しています。ですから今は私の自由です」

彼女の表情は笑顔だった。

半分は作り笑顔かもしれない。

でも半分は決意の表情だったのかもしれない。

それでもまだ私は心配をぬぐい去れなかった。

「親戚は?」

すると彼女の表情が少し暗くなった。

「遠い親戚しかいませんので、母が亡くなったことも誰も知りません」

「あ・・・」

私はまずいことを聞いてしまったのかもしれない。

親戚がいればそもそも一人でいるわけがない。

彼女は孤立させられた独りぼっちだったんだ。

「植草さん?」

彼女に肩を揺さぶられ、私は悲しい想像の世界から目を覚ました。
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