思い出のフィルム
「ごめんなさい、私が変な顔しちゃって」

彼女はあくまで私のことを気にしてくれているようだ。

「いや、ちょっと考えすぎただけだ。君さえよければ付いてきてほしい。だけど今日は家に帰れる保証はないよ?」

すると彼女は静かに微笑んでみせた。

「私は夢のために就職したつもりで来てますから、その辺はお構いしなくて結構ですよ」

彼女の決断は本物だった。

あどけない瞳に浮かぶ輝きは、車窓の向こうにある砂浜を凝視していた。

彼女は見た目こそ綿飴のようにフワフワしている優しい子に見えたが、一方で自分の夢を完成させるためにまっしぐらに突き進む精神があるようだ。

「わかった」

私はそうとだけ言って窓の外を見た。

それ以上は何を言っても意味がないと思った。

彼女は彼女なりに私についてくる目的を持っているようだし、それはゆるぎないもののようだった。

そして彼女のようなプロ顔負けの写真家の卵と一緒に仕事ができるのは私にとっても好都合だった。


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