思い出のフィルム
「それ下さい!いくらですか?」

すると老婆は「ヒッヒッヒッ」と笑い声を揚げてこう言った。

「お前さんの髪の毛3本と交換だよ」

「え?」

優子は何かの聞き違いかと思ったようだ。

しかし老婆はそれを見透かしたかのようにこういった。

「私は髪の毛を集めている。あんたには関係ないだろうが、あたしの趣味でねぇ。あんたは長い髪だから3本にまけておくよ」

優子はなんだかよくわからないという顔をしつつ、頭に手を伸ばした。

そこに私が手をのばして優子の手を取った。

「私の髪だといくらだ?」

すると老婆は私を見てニヤリと笑った。

「5本もあれば十分だ」

そして私はスーツについた自分の髪の毛2本と優子の肩にあった髪を2本を摘んで差し出した。

「これならどうだ?」

すると老婆は髪の毛を手にとってエプロンの胸ポケットにしまった。

老婆は私と優子の立っている位置から中身が確認できない鍋をかき混ぜ始めた。
その鍋はグツグツと煮える音がするのではなく、ボコンボコンと音をたてていた。

老婆は後ろをむいて大きな包丁でネギのような植物を切ってスープに混ぜると、木彫りのコップのようなものに、ドボドボとスープを入れた。

私はその木彫りのコップを受け取ると、思わず落としそうになってしまった。

「なんだこれ」

私は思わず最初の感想を漏らした。

優子もコップの中をのぞき込み、困った顔をしていた。

香りはとてもスパイシーで、チキンの香味揚げのような香りがしていた。

しかし実際にコップの中にあったものは、ポコポコを泡立つ、真っ黒でドロドロの液体だった。

液面には薄皮のような膜が張られ、揺らしても液体の形がなかなか変わらないほどにドロドロしていた。

この石油と溶岩と工業廃水の混合液のようなものは、果たして・・・
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