思い出のフィルム
「優子、本当に飲むかい?」

「はい・・・」

彼女もまだ口に運ぶ決心がなかったようだった。

私は彼女の耳元でこう囁いた。

「全部飲んであげてもいいぞ?」

優子は迷っていたので、私がスープのコップを取り上げた。

私はそう言って意を決して一口だけだが、口の中に流し込んだ。

優子が小さな声で「無理はしないで下さい」と囁いた。

食感は一晩煮込んだシチューのように濃厚で、味はトマトソースとカレーを併せて野菜の甘みが存分に味わえるようなものだった。

しかも飲んだあとに体が適度にポカポカと温まり、スパイシーな香りが口の中に残った。

「おいしい。これおいしいよ」

すると背後で老婆が声高らかに笑い、再びスープをかき混ぜ始めた。

老婆なりの「毎度ありがとうございます」だったのかもしれない。

私は優子にもスープを一口飲ませた。

「見た目は一癖も二癖もありますけれど、味は濃厚トマトソースカレーみたいな感じですね」

私も同じ感想だった。

見知らぬ土地に来たら誰も知らない珍味に出会うこともあるだろう。

でもそれを楽しみに来る人の気持ちが私にはなんとなくわかった。

私はカメラに手を延ばし、老婆のいるスープ屋の写真を撮った。

デジカメのディスプレイには私が思っていたよりはっきりとした店の屋台が映し出されていた。

そして同時に悟った。

私はこれまで写真の技術にこだわって写真を撮り続けていた。

でも目の前の写真は私がこの瞬間を残したいと思い、シャッターを切ったものだった。

シャッターを切ったとき、私はなるべく鮮明な状態を保ち、多くの雰囲気を残そうと自然に体を動かしていた。

だから目の前にある写真は私が気に入った一枚となっていた。

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