思い出のフィルム
ボヤッとしていた矢先、列車が急停車し、彼女は抱きつくかのように私の胸に飛び込んできた。

私もバランスを崩しかけたが、私は彼女を片手で受け止め、背後に手をついた。

彼女はゆっくりとまぶたを上げて、私の顔を見上げた。

とたんに彼女は慌てふためき、そして頭を深く下げた。

「ごめんなさい」

すると彼女は空虚を見つめたまま、虚ろな視線のまま座り込んでいた。

まるで魂が抜けているかのように脱力感が体全身から漂っていた。

しかし列車の中に二人しかいないとはいえ、見ず知らずの私が声をかけるのも、何か不自然なものを感じていた。

それから景色を眺めて10分程で、列車は終点にたどり着いた。

いつも向かい側ホームから聞こえてくる終着駅だった。

先ほどまでの私なら、駅の真下にある渓谷や、山々に囲まれた風景を堪能していただろう。

私は隣に座っていた彼女の肩を叩いてあげた。

「終点だよ。気分が悪いのか?」

私がそう声をかけれと、彼女はハッと我に返ったかのような表情を浮かべてこちらを向いた。
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