誘拐 ―おまえに決めた―
10章 大きな木の下
折れた枝が足の裏につき刺さる。
湿度を持った土に足がもつれて、うまく走れない。
雨が体温を奪い、身体の芯から冷えているのを感じる。
後ろからくる「走れ」という声。
ただそれに従って山道を走り続けた。
リクの言葉通りに。
「はぁはぁ、もう走れないよ」
誰もいないのに言い訳のように呟く。
それは私自身へなのか、それとも。