誘拐 ―おまえに決めた―
酸素を過度に取り込もうと、呼吸が乱れる。
裸足で走るのって難しい。
リクに足を拭いてもらった時、靴も靴下も全部脱いでしまった。
綺麗になった足もまた泥だらけ。
真っ暗な山の中、自分が呼吸する音だけが耳に届く。
遠い物音は雨音にかき消される。
だけれど雨の音だけしかしないという事実は、私を少しだけ安堵させる。
トイチが近くにいない証拠でもあるから。
私は大きな木の根元に空洞を見つけた。
多分、地盤が下がり木の根っこが出てきてしまったのだろう。
雨風くらいは凌げるかもしれないと、ひとまずそこに隠れることにした。
(追ってきてるのかな。姿は見えないけれど)