誘拐 ―おまえに決めた―
「こんなのなんてことない」
「そんなのダメだよ!」
自分で思っていたより大きい声が出て、びっくりした。
「マイ、どしたの」
リクがたじろいでいる。
私はハンカチを取り出し、傷口に結んだ。
「これで止血にはなるかな。リク、痛くない?」
「いいのに」
「リクも素直じゃないね」
先程と逆のことを言い合う。
それはごく自然に。
お決まりの漫才パターンのよう。
「でも、ありがと。マイ」
すごく優しく微笑むから、何だか胸の奥がズキズキする。
リクのジャケットに染み込んだリクの匂いが妙に懐かしくて、変な感じがする。