誘拐 ―おまえに決めた―
11章 冷たい唇

ちゅっと湿った音がした。

小さく、一つ。




雨で濡れている唇は冷たい。

リクの、そして私も。



リクの唇の近くで私はささやく。



誘っていると受け取られても仕方がない口調で、裏腹な言葉。


「その唇を温めているだけだよ」と。


ただ、それだけ。




助けてくれたお礼、一回分。


それ以上の意味はないから。


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