誘拐 ―おまえに決めた―
札束を鞄に移動させていると、札束が擦れる音とはまた別の音が背後で聞こえた。
「なっ」
「しっ!!」
おもわず声を出してしまった私の口を、リクの手が覆う。
足音が近づいてくる。
その数は一つ。
トイチか。
(逃げようよ)
私は目で合図する。
しかしリクは首を横に一回振りながら、「まだ足りない」と口パクで私に伝える。
もう一方の手でトランクのお金を、鞄につめかえる作業はやめない。