誘拐 ―おまえに決めた―
足音が私たちのいる木を通り過ぎた時、
「逃げるぞ」
また声を出さず口元だけでの合図が送られた。
リクは左手に鞄、右手に私の手を掴んで走り出した。
引っ張られるように走る。
「はあはあ。今日は走りっぱなしだよ」
リクの足が速くて、ついて行くのがやっとだ。
「明日も走れるように、今精一杯走れ」
「えっ」
「明日も生きていたいなら、何も考えず足だけ動かせ」
私はほとんど斜めになりながら走った。