誘拐 ―おまえに決めた―
足元がぐらりと揺れて、真っ逆さまに落ちる。
景色が妙にゆっくりと見えて、頭上で言い争う声が聞こえた気がしたけれども、私はすぐに意識をなくしてしまった。
自分の終わりを感じながら。
だけれども、不快さは私を現実に引き戻す。
息が、できない。
暗い。
怖い。
冷たい。
苦しい。
「助けて」と叫びたくても、水中では声が出ない。
私は再び気を失いそうになるが、大きな音、そして急な水面の広がりを感じた。