誘拐 ―おまえに決めた―
――― 逃げなきゃ、
足を一歩踏み出したその瞬間
ぐっと抱き寄せられた。
「どこへ行く気だ?」
耳元で、低く、ささやく。
「逃がさないよ。俺から」
リクの腕の中で、私の肩がビクリと震えた。
そう、これが愛のささやきならもっと違う反応ができただろう。
同じ言葉でも、状況によって違って聞こえる。
今日、現国の時間に繰り返されたフレーズ。
ただ、今はこのセリフは恐怖でしかない。