澤木先生のサイアクな日曜日
「次の方。阿南春樹さん」
診察室に戻ると、澤木は気を取り直して次の患者の診察に取りかかる。
「いやぁ、昨日妹の結婚式で、飲みすぎちゃいまして」
本日最後の患者は二十代半ばの男性だ。上腹部の痛みを訴えている。
状況と症状からして、暴飲暴食による急性胃炎といったところだろうか。
「あの・・・大変申し上げにくいのですが」
澤木が急に深刻な表情になったので、患者は「まさか、いきなり何か宣告されるのか?」と身構えた。
「もしよろしければ、お腹のほう、触らせていただいてもよろしいでしょうか」
他人にお腹を触らせるなんて、一般的な感覚から逸脱しているはずだ。
アユミさんのパンツショックから学んだ、澤木なりの「配慮」だった。
「はぁ。いいですよ?」
患者からしてみれば、そこまで丁寧に断りを入れられるとかえって意味深に感じてしまう。この医者、なんか下心でもあんのか?
「どうぞ!」
まぁ、いいさ。別に減るもんじゃないし。
患者は着ていたTシャツを、勢いよくたぐり上げた。
「む、胸まで出さなくてもいいですよ」
だ、大胆な人だな。
色々な人がいるものだ。
「配慮」って難しい。
私も、まだまだだな。
澤木がそう思いながら患者の上腹部に手を伸ばしたとき。
「先生」
小さなか細い声。
どう考えても、目の前で上半身の全てを晒しているこの患者の声ではない。
澤木が声のした方に顔を向けると、診察室のドアの隙間からこちらをのぞく、周囲に色々ついた目が二つ。
アユミだった。