澤木先生のサイアクな日曜日
処置室に女子高生を運ぶと、澤木は診察しながら、倒れたときの状況を友人たちから聞いた。
5人が同時に喋り始める。
相乗効果で自然と各々の声が大きくなり、迫力のあるメイクも手伝ってさながら喧嘩を売っているかのような騒々しさだ。
「ウチらぁ、野球の応援ばっくれたンすヨ」
「なんかぁ、乗ってたバスのエアコン壊れててぇ、パネく暑くってぇ」
「マルタでアイス食うべとかゆってたらぁ」
「急に雨ってきたからぁ、てか駅前のマックでもよくね?ってことになってぇ」
「そしたらアユミがマヂキモいとか言い出して急に倒れてぇ、てか道路にひっくり返るとかマヂありえねぇし」
澤木は聖徳太子の子孫ではないが、5人の話の聞き取れた部分を総合し、こういうことだと理解した。
1.6人はバスに乗っていた
2.そのバスのエアコンは壊れており、車内が暑かった
3.駅前でバスを降りた後、何か冷たいものでも食べようかという相談をしていると、突然の雨
4.そのとき、アユミさんが急に倒れた
うん、状況と症状からして、熱失神だろう。
澤木はそう診断を下すと、患者を静かに休ませるため、5人の友人に玄関で靴を脱いでから待合室で待つように、丁重にお願いした。
「チョリーッス」
「先生、マヂヨロー」
「オメェ、敬語使えよ!先生、マヂよろしくっス」
趣旨を全く理解していない5人の友人は、賑々しく処置室を出て行った。