S的?遊園地
驚いた私は、平畠さんに視線を向けたまま硬直してしまった。
(何でこんな所に平畠さんが?)
私は声にならずに口だけパクパク動いている。

「何だその変な顔は。」

平畠さんは呆れたように肩を落とした。

「あの。彩の家がこの辺で、急に呼び出されて、カワイイパン屋さんがあったから、買って帰ろうかと。」

私は『何か話さなきゃ』という強迫観念から、自分でもびっくりする位、たどたどしい喋り方になってしまった。
平畠さんは話しが見えないのか、怪訝に眉をひそめた。

「そう。じゃあな。」

素っ気なくそう言うと、平畠さんは静かに背を向けた。

「待って下さい!」

歩き出す平畠さんの背中を、無意識に呼び止める。

平畠さんには、聞きたい事が沢山あった。
あの日のキスは何だったのか。
女の人は誰なのか。

色々な思いが頭の中を駆け巡る。

「お、おい。」

振り向いた平畠さんの眉間にはシワが寄っていたが、私の顔を見ると驚いた様に目が見開く。
気付くと私の目からは涙が溢れていた。

「何で、平畠さんはそうなんですか!」

人前ではあまり泣かないのだが、もう自分では止められなかった。
思いも、涙も...。

「平畠さんの事、何にも知らないし、分からないんですぅ。」

大粒の涙の向こうで、平畠さんの顔が歪んで見えた。
駅前の通りに、何人か人が通っている。

「くそ。」

そう、平畠さんの声が聞こえる。
次の瞬間腕を掴まれると、平畠さんから強い力で引っ張られた。

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