好きです、お兄ちゃん
「よし……じゃあまずキャベツを」
早速料理に取りかかろうとした時、リビングに入ってきた蒼哉さんが対面式のキッチンから見えた。
「沙由ちゃん、沙由ちゃん」
ひそひそ話をするように話す蒼哉さんに、私は小首を傾げる。
「なんですか?蒼哉さん」
「お兄ちゃん、でしょ?何回言ったら分かるのー」
いきなり素に戻る蒼哉さんに驚く。
前に「お兄ちゃんと呼べ」とは言われたけど、私のキャラで「お兄ちゃん」はないと思う。それが恥ずかしくて、今まではぐらかしてきたのだ。
「す、すいません……」
「もうすぐ一週間だからさ。"蒼哉さん"で定着すんの俺嫌だからね?」
「はあ……」
「お兄ちゃんて、言ってみ」
真面目な顔をして言う蒼哉さん。
大体あなたなんで来たんですか。
「そ…それより、」
「言ってみ」
流石にもうはぐらかせない。
なんだ、お兄ちゃんて。「お兄ちゃん」ほど恥ずかしい呼び方ってないよ。でも呼ばないと殺されそうだし。ええい、一言だけよ……。
「お……おに、」
「うんうん」
「おにぃ…ちゃ……ん」
言い終わった頃には顔全体が熱かった。なにこの羞恥プレイ。
私が希望に応えたことにか、はたまた今の私の状態にか、蒼哉さんは嬉しそうに笑った。