19の夏~私の愛した殺人鬼~
「動くな」


 青年は低い声で一言いうと、からまった髪をほどいていく。


 男にしては細くて白い指先。

 だけど、決して頼りないわけではない。


 その手ですべてのものを包み込んでしまいそうな、そんな大きさがある。


「……ありがとう」


「邪魔なんだよ」


 紗耶香の言葉を見事に遮り、青年が言った。


「え?」


 キョトンとして聞き返す紗耶香。


「髪、伸ばしたけりゃ結べ」


 青年は表情ひとつ変えず、紗耶香へ向けて言ってのけた。
< 4 / 356 >

この作品をシェア

pagetop