piece
この時期は大学生が多い。
今日は水曜日
週の中日だからかお店は暇だった。
「うみおちゃんてゆうの?」
オーダーを取りに来た海央の名札をみた大学生が
読み方を聞いてきた。
「いやー海央って書いてミオです」
「…!!」
「やべー!!
うみちゃんかわいぃぃぃっ!」
にっこり笑顔の海央に大学生たちは盛り上がった。
「うみちゃんいくつ!?」
「彼氏は?」
まだ海央がバイトをはじめて
1ヶ月ぐらいだったが
この展開は4、5回あった。
いつもノリ良く適度に話をして
わぁーっと盛り上がっていたが
今日は途中からできなくなってしまった。
オーダーのたびに
「うみちゃーん!!」
と呼ばれては同じバイトや店長から
ご指名だね~といじられつつ行っていたが
何回目かのときに
海央の目にさっきの階段男がはいった。
「航太!ほら!うみちゃん!」
階段男は海央に
「さっき会ったもんね~
あっ生ひとつ!」
人差し指を立て海央を横目で見る階段男改め航太。
海央は一瞬だけ
誰にも気づかれない一瞬だけ
航太にみとれてしまった。
航太はジョッキを空けると
海央に渡し
「うみちゃんてゆうの?」
と聞いてきた。
周りの大学生仲間が今更かよ、と言ったが
航太は見向きもせずに流していた。
海央と目を離さない航太。
「…ミオ」
名前をいうタイミングをワンテンポ逃した海央
言えたときは人見知りのこどもみたいで
海央は急に恥ずかしくなった。