理想の女性
すでにここには種を仕込んだ。

後は立派な実になるのを待つだけ。

「男の子だったら普通に育てるわね。でも女の子だったら…」

妻の眼に、鋭さが宿った。

鋭い歯をむき出しにしながら、笑う。

「ちゃんと教えなきゃね♪ 子供を生む前に、愛しい旦那様を喰らうことを! キャハハハハハッ!」

ひとしきり笑うと、食い千切った夫の首筋に顔を寄せる。

「あなたは最高の旦那様だったわ。ちょっと夢見がちなところがあったけど、それでも優しくて思いやりがあって、頭の良い人だった。…人を見る眼は無かったのが、最大の汚点ね」

そう言って舌を伸ばし、溢れる血を舐める。

プルルルッ!

不意にケータイが鳴り、妻は手を伸ばして電話を受けた。

「もしもし?」

『どう? 仕込みは終わった?』

「ええ、でもまだ食べ終わっていないの。朝になったら処理しに来て」

『分かったわ。最後の夜を十分に楽しみなさい』

「うん、お母さん」

そこで会話は終了。

朝になれば母親の息のかかった者達が、ここを掃除しに来る。

そして妻は、実家に戻らなければならない。

妻は夫を見下ろした。

「帰る前に、じっくりとあなたを味あわせて。これで最後なんて悲しいわね。美味しいあなたをもう食べれないなんて」

切なく悲しく呟きながら、夫の死体に歯を立てる。

「でもわたし、子育て頑張るから。お母さんに手伝ってもらいながらも、立派に育てて見せるから」

眼を細め、再び腹を撫でる。

「わたしの美しさと、あなたの賢さを引き継いだこの子を―」
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