ストリート
俺は無造作にパンをカゴにいれている彼女のカゴをひょいと取り上げて
「こんなのじゃ栄養取れないよ?」
と、ニコッとした笑みを見せる。
すると振り向いた彼女の頬はほんのり赤くなっていて、心なしかしんどそうな顔をしていた。
「細いのも可愛いけど、もう少し肉はついていた方がいいよ?」
と言った。
するとゆっくりと目を伏せた彼女は
「(カゴ)持ってくれてありがと。」
そう抑揚のない声で呟いた。
その言葉を聞いた瞬間ビックリしてカゴを持つ手の力が和らいだ。
和らいだ力に彼女は待っていたかのようにカゴを取り返した。
そのままレジに並んで会計を済ませた彼女はコンビニを出たが、俺はその場から一時の間動く事が出来なかった。
それは、彼女の声がとても綺麗だった事。
声を出した後小さく口角を上げた事、彼女が言った言葉、全てに驚かされた―…。
まずカゴを取ったのは俺なのに彼女は文句ではなく、お礼を言ったのだ。
普通の人なら嫌みの一つぐらい言うだろうに―‥。
後は、あれだ。
全く媚を売って来なかった事…‥。正直、自分の容姿は十分に自覚しているつもりだ。
なのに、見向きもしなかった。普段ならそんな事絶対にない―‥。絶対にね。