森奥の水郷
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痛みも退いて、また景色を眺めていた。
山の合間に田んぼが見えてきて、そろそろかな、なんて思ったら。
「次は――御深山(おみやま)、御深山に停まります。」
目的地が車内アナウンスで読み上げられた。
家を出てから此処まで来るのにざっと3時間…座り続けるのは辛かったが、ようやくそれも終わる。
「やっと着いた…」
固くなった身体を背伸びで解し、「よっ」と掛け声を掛けてリュックサックを背負う。
結構に重量があるため、必然と前傾姿勢になりながらも何とか運転手に切符を渡してワンマン電車から降りた。
ガタン、ゴトン…
3時間も乗ってきた電車は、終着駅まで走っていく。その後ろ姿が緑に埋もれて見えなくなるまでじっと見送っていた。
「……行こう。」
誰にともなく呟いて、私は無人駅を離れる。
【桃源郷】まであと少し