森奥の水郷

ガラガラ――


「さ、入って。」


促されるままに足を運ぶと、数ヶ月前に訪れた時のまま変わらない玄関と『ホトトギス』の花が私を迎えてくれた。
以前来た時は、花瓶の花は『梅』だったかな?


「お邪魔しまーす…」


此処は彼女の住む離れで、本邸は少し離れた所にある。
こうした敷地内別居はこの街では至極当然らしい。
初めて来たときは、その敷地の広さに驚いもんだけど…今は勝手知ったる他人の家、だ。


離れには玄関、居間、寝室と和室。あとは水回りがある。


「これで離れなんだもんな…アパートやマンションよりよっぽど良い物件だよ。」


感嘆の息を漏らしつつ居間へ向かうと、お茶菓子とお茶を用意してる彼女の後ろ姿があった。
囲炉裏が風情を醸し出していて、電子ケトルが主流の自分は随分と楽をしてるんだなぁ、と実感してしまう。


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