【花集】あの花火が遠くに見える
こうして、僕の一週間に及ぶ暑い夏は過ぎていった。
うだる様な夏の現場をこなし、秋が過ぎ、冬を迎えた。
どの季節でも、汗だくで塩を吹いた。
それは、何も変わらなかった。
一つだけ、変わった事がある。
この仕事の後、島野が事務所を辞めたのだ。
お父さんが体調不良となった為、東京を離れて実家の新潟に帰ると言う。
その事を電話で僕に伝えてきた島野の声は、とても寂しそうだった。
簡単にお別れの挨拶を済ませた後、彼女は電話を切る前にこう言った。
「また、連絡するね」
これが島野と僕が交わした、最後の言葉となった。
その後、島野から連絡が来る事はなかった。
僕からも一度連絡をしたが、どうやら携帯番号を変えたらしく、彼女と繋がる事は二度となかった。
気が付いたら、あれから10年が経過した。