好きを私にください。
「辛くはないんですか…?」


俺は辛くておかしくなりそうだ。


「辛いっちゃぁ辛いけど…でも、辛いと思っちゃあおしまいじゃないかい?」


辛いと思ったらおしまい?どういうことだ?


「人を待つのだっていいもんだよ。」


そう言って俺に微笑みかけた。


「私の主人は植物人間でねぇ…。」

「え…。」


要するに、植物状態…ってことだよな?


「もう何年も前に脳卒中で倒れてねぇ…それからずーっとさ。」

「…なんで辛くないんですか…?」

「そりゃあ辛いと思うときもあるさ。辛いと思わない方が無理だからね。だけど、私は主人を信じてるからね。」


信じてる…。


「いつかきっと目を覚ますってね。」


いつか…きっと…か。


「だから大丈夫なんだよ、私は。」

「…強いですね。」


思わず口から零れた言葉。


「強くなんかないさ。ただ、信じてるだけだよ。そんくらいアンタにだってできるだろ??」

「えぇ…。」

「信じてるだけで、強くなれるんだよ。強いから、信じられるんじゃない。」


…このおばあさん、いいこと言うじゃん。


「俺だって信じてます。けど…。」

「けど?」

「待ち続けるだけが、辛くて。」

「そうかい。じゃあ、そういうときはここにでも来るといいよ。」
< 270 / 350 >

この作品をシェア

pagetop