不器用なシタゴコロ
そして。
モモクンはスッと立ち上がると。
「…聞いてくれる…?」
そう言って私の正面に座り直し。
部屋の戸を静かに閉めた。
何を言われるのか。
これからモモクンが話そうとすることが。
わかるようなわからないような。
…ドクン、ドクンと。
心臓の音が体に響く。
部屋の中は物音一つなくて。
笑い声や賑やかな音が。
戸の向こうから微かに聞こえてくるだけ。
…モモクンに。
この音が聞こえちゃいそう…。
「…柚」
モモクンは。
私を見据え、名前を口にした。
それは。
月のキレイなあの日の夜。
キスする前に私を呼んだ。
あの時の声と同じ。
甘く、私の本能を誘う声だった。