不器用なシタゴコロ
オフホワイトのバスルームは。
乳白色の温かいお風呂から上がる湯気でいっぱいになっていた。
「……はぁ……」
……落ち着く……。
さっきまでの変な緊張感はなくなって。
やっと自宅に帰ってきたって感じがした。
今頃“瑞希くん”は彼に確認してるんだろうか。
彼は“瑞希くん”になんて言うんだろうか。
結局。
リラックスできるはずのお風呂でも。
考えてるのは“落とし物”のこと。
これだけ人を悩ませる落とし物なんて。
そうそうないだろう。
あの時。
パン屋さんの軒下に入らなければ。
あの彼に話し掛けられることもなかった。
あの時。
パン屋さんが開いていれば。
落としたケータイをそのまま預けておくこともできた。
「今日は厄日だぁ…」
ブクブクブクと。
そのままお風呂のお湯の中に沈んでしまいたくなった。