不器用なシタゴコロ

でも、とりあえず。





「…よかった…」





持ち主の彼に返せるんだ。

安堵のため息混じりの言葉が思わず漏れる。

と、ホッとしたのもつかの間。

“瑞希くん”の次のセリフにまた。

私の心拍数が上がることになった。





「本人いるから、かわる」





……………え……………?





「吠えるくらい大事なもの落とすなって言ってやって」





“瑞希くん”は。

返事をしない私を無視して「逃げんなっ、とーや!!」と。

彼を呼んだ。





え?

え?

え?





なんでかわらなきゃいけないの?

私、落としたパン屋さんに預けておくからって言ったよね?

そう伝えておいてくれればよかったのに。





私の疑問は声にならないまま。

“彼”は電話に出た。



 

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