不器用なシタゴコロ

とーやクンの小さな呟きは。

賑やかなお店の中のはずなのに。

私の耳に届いた。



ココだけ妙な静けさに囲われてしまっているかのように。

はっきりと…。





『…遠回りって、なに…?』





“聞いても仕方ないよ。
私は彼に踊らされていただけなんだから”

立ち上がった手を引っ張る自分がいる。



“聞かなきゃダメだよ。
このままじゃ好きになった私のキモチが浮かばれない”

座り直すように促す自分がいる。





帰りたいなら全てを無視して帰れたはずなのに。

それをしない私。



…“帰れない”んじゃない。

“帰らない”んだ。





ギュッ…。

バッグを持っている手に力が入る。





これだけヒドいことを告白されてんのに。

どこかでとーやクンを…。

ツラい時、背中を押してくれた。

好きになった2sbBを信じたいキモチがあるんだよ…。





その時。

視線を逸らしていたとーやクンが。

私の左腕を掴んだ。



 

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