恋する距離
「みのりちゃん!?」




今は聞きたくない声が、後ろから聞こえた。私は振り向かずに足を早める。




「ちょ、みのりちゃんてばっ!」




それでも男の子の足には敵わず、私はいとも簡単に腕を捕まれた。




「このストラップ……、みのりちゃんのでしょ?」




私が振り返らないでいると、和樹君は私の顔の横から腕を伸ばし、『MINORI』と書かれたストラップを見せてきた。




さっき落としたのはこれか……、私のドジめ。




「ありがと、じゃあ……」




これ以上和樹君といると、泣いてしまいそうになる。
私は教室に戻ろうとしたけれど、和樹君は腕を離してくれなかった。




「もしかして、みのりちゃんさっき……」


「……みたよ?」



和樹君の言葉を遮って私は答えた。和樹君の口から直接聞いて、傷口に塩を塗るようなダメージを受けたくない。




「あれは、その……なんて言うか……」




口ごもる和樹君は照れてるような、バツが悪いような、とても複雑な顔をしていた。




そんな顔なんて見たくなくて、私は和樹君から目をそらす。




「別に私、気にしてないから」


「ホントに!?」




私の言葉に、和樹君は嬉しそうな声を上げた。
横目で和樹君を見れば、ホッとしたような安心した笑顔。




やだ、嫌だよ。そんな顔で笑わないで……。
他の娘の為に、笑わないでよ。




自分の汚くて諦めの悪い気持ちに、心が潰れそうになる。




醜い私の心と優しい彼の心の距離。




測定不能……。




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