光輪学院シリーズ・神無月の憂鬱
そして奥にある台所へ行き、麦茶をコップに注いで玄関に戻った。

依琉がまだそこにいたからだ。

「依琉、これどうぞ」

「ありがと。のど渇いてたんだ」

麦茶を飲むと、依琉は笑みを浮かべる。

「しかし神無月の巫女姿、改めて見ると新鮮だね。いつも制服姿しか見ないから」

「プライベートでは滅多に会わないしね。私も依琉の私服姿見るのは久し振りだわ」

「そうだね」

二人でクスクス笑っていたが、ふと依琉の目に真剣味が宿る。

「…さっきの夫婦、仲が良さそうに見えたね。本心はともかく」

「また何か<視>えたの? …と言うより、<視>えなくとも、分かる気がするけどね」

肩を竦める神無月の姿を見て、依琉は笑った。

「そうだね。気付かぬのは彼女だけ。それが不幸か幸か…」

「旦那さんは一応は必死だったわよ? 奥さんを助けようとする姿はある」

「そうだねぇ。それがまた、滑稽だとも言えるけどね」

イジワルそうにクスクス笑う依琉。

思わず眉をひそめる。

「そういう態度はあんまりよろしくないわよ? いくら美少年でもね」

「褒め言葉だと思っておくよ」

見た目は儚げな美少年なのに、腹の中は真っ黒な依琉だった。

やがて教室から二人が出てきた。

妻の手には赤いお守りが握られている。

「あっ、お嬢さん」

夫は神無月を見つけるなり、駆け寄った。

「あなたの言葉は力があると、お祖母さまから聞きました。あなたからも彼女を元気付けるお言葉をかけていただけませんか?」

「はあ…」

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